第4章 静謐に佇む
「ただし一つ、条件があるのみだ。」
カチャ、と 森の言葉を
もはや介さぬ、殺す、という僅かに滲む闘気が漂った。
持っていたナイフを備える。
「君にすべての自由を与えるかわりに
君のすべてを、私がもらう。」
「は––––」
白い着物はすでに血に濡れて
暗殺者は少しも警戒を解かずに、そう小さく言葉を漏らす。
「そんなの、貴様が駄目だと言ったら
全て反故ではないかよ。
知ったことか。 妾を縛るな、人間」
キリと糸を手繰った。
「だから、そこは自由だと言ったろう?」
「は…、はぁ……っ!?」
暗殺者が呆れた声を出した。
「そこはそれ。
君、世界的な暗殺者って讃えられているのだから。
臨機応変だよ」
にこりと笑う彼。
「それでは 本末転倒ではないかよ。
愚かな策だったさね」
『自由にするかわりに全てに従え。
しかし、従わないという権利もあって、それを貫くための自由もある』
…と。
「果たしてそうかな?
私は言った。
私にだけ従えと」
「…………」
にこにこと笑う彼の笑みは
人を食った嫌な笑みだった。
「私は、いささか 合理主義が過ぎると言われるのだがね。
無駄は省く、面倒も省く。」
「それが過程であり道程で
どうしてもかわせないものだってあるだろうよ」
『それ』からの問いに、彼がうなずいたのが判る。
雰囲気というか。
「うん。そうだね、だからそこは合理的に。
適材適所。
そういう時、君を使う。
それでいい。それだけでいい。
それ以外の自由は、私の全責任で 用途は君に任せよう。」
「…貴様……」
私の言葉で、今度こそ暗殺者の戦意を削げさせたらしい。
は、と『それ』が吐息した。
「斯く言う君も、そうやって正義など振り切って
己を正当化し続けたのだろう?」
「暗殺者など、そういうものさね」
「それはあるじがいない暗殺者だけだ」
『それ』の長い黒髪が、ぼんやりとした光に照らされている。
闇オークションでは、光源の位置を悟られないように
会場全体がはっきり見取れる訳ではない。
「君のあるじは今日から私だ。」