第4章 静謐に佇む
綺麗に切断された その断面から
一拍遅れて、血液が勢いよく噴水のように噴き出した。
『それ』の纏う純白の着物が
真紅に染まってゆく。
「…ふむん。
醜悪な姿よな」
糸から滴り落ちた血の粒が
ぽつぽつとホールの床にシミを作った。
キュルと鉄線が、その包帯に包まれた指先に引き寄せられる。
「終いだ。」
その声がぽつりと聞こえたところで––––
パチ、パチ、パチ。
最初からこうなることを判っていたかのような
あらかじめ準備されていた、白々しい拍手だった。
「いやあ、素晴らしいねぇ。
うん。非常に、素晴らしい」
トントンと
臙脂色とカーペットの敷かれた薄い階段を、ゆっくりとした足取りで降りてくる。
……まるで、自分は殺されないとでも言いたげな––––
「貴様。 貴様も、妾の糸の餌食にでもなるか」
くつくつと笑った 白い着物の暗殺者がそう言う。
その袂から、それの指先に巻きつく鉄線と繋いだナイフが姿を覗かせた。
「おっと。
解体願望とは、さすが世界屈指の暗殺者。
そうだろう?」
床に散る 血の色みたいな、赤っぽいような黒っぽいような
そんなストールを軽く羽織って、笑いかける彼。
着物の裾内から覗かせたナイフを握りこむ。
「ここで一つ交渉だ。取引と行こうじゃあないか」
「ハ。妾に何のメリットがあるのさね」
「ま、聞き給え」
こつ、こつ、と近付いてくる。
武装は解除していないが、
だからといって緊張している立ち方でもない。
嗚呼……この暗殺者は––––
出来る。
森の脳内での、3度目の値踏みが終了した。
そして、その上で言い放つ言葉は。
「交渉だ、暗殺者。
君の身は自由にしよう。
何をしても良い。 何をするも良い。」
「…………。」
大胆不敵な笑みをそのままに
それ は腰を僅かに落とした姿のままだ。
つまりは抜打ちの体勢。
気を抜けば一瞬の間に、
彼は目の前の暗殺者に掻き切られるだろう。
彼だってそれを理解している。