第27章 La Vierge…I
「そういえば––––
先ほどの巡回……もしかして、他の組織とかち合った?」
ふと思い出したかのように振り向いた三島幹部が
私の、綺麗にカットされてしまった毛先を優しく手繰る。
「はい。
此度のこの一件は、他の異能企業も尽力しているとの事でした。
多分……」
あの体捌きに、刀遣い。
そして手帳からの物質顕現……
自分の異能力を相手にしていた彼は帯刀していなかったけれど
あの彼も、武闘を修得しているだろう。
「–––– ヨコハマ武装探偵社かと。」
「ま、そうだろうね……」
三島幹部が、何やら思案していて
こういう時は話しかけない、と組織内では決まっている。
彼に限らず、幹部様がそういう時は。
「彼らを敬遠する手立てが?」
「勿論。あるよ。」
穏やかに、甘い目をして微笑んだ。
その目に光などない。
あるのは、闇をゆく凶悪犯罪組織の幹部という肩書きの運命を
歩くしかない現実。
「……嗚呼、でも。
上橋は顔、見られてるからね。
これから先、戦うのは上橋が望ましい。」
それはそうだ、ポートマフィアとしては、今この地にいる
切り札たる幹部2名はとっておきにしておきたい。
「次から……いや、今日からは
何かと組織との抗争に駆り出されるだろうけれど……」
するりとその指先が、毛先から遠ざかってゆく。
髪に感覚はない、それでも三島幹部の体温が伝わってくるかのようだった。
「あまり 死闘はしないように。」
「……はい」
小さく掠れて漏れた声は震えていた。
きっと顔が赤いのがバレてしまっているのです。