第4章 静謐に佇む
「こちらが、海外暗部の頭取、『聖王』が落札した
暗殺者で御座います。」
「ほう」
「これは」
じゃら、と鎖の音が鳴った。
今から、ざっと7年、8年ほども前。
「『これ』を捕らえるためだけに、
我々の部隊70ほどを使い潰しました。
値が張るかと。」
ふざけた仮面を着けた男たちが
人身オークションに来ている。
「何だ、たった千にも及ばぬ人数か。
堕ちたものだな、暗殺者」
たばこの臭いが充満している、オークションの闇会場。
男の声がした。
暗殺者、とは 自分のことだ。
「哀しいですなぁ。
そんなでも、800人ほど『これ』にあてさせたと言うのに」
重苦しく鳴る鎖の音は、沢山あった。
その暗殺者の華奢過ぎる身体に、幾重にも巻きつく枷。
捕えられたそれが非常に危険で非道なのだと証明させる。
白無垢の如き 純白の着物に
紺碧の、澄んだ藍色の襦袢。
長い黒髪は、『それ』の華奢な腰にまで烟っていた。
「美しいな…
やはり、監獄に入れ込んで延々犯してしまっても良いが
これはこれで、幕僚の将校にあてがうのがいい」
「…嗚呼、この身体をか」
ギシリと鎖が軋む。
無遠慮にも 仮面の男の手が、『それ』を触る。
「『これ』とて、暗殺を生業とするのなら
意思や感情など必要ではないだろう。」
別の仮面男が、たばこを灰皿に押し付け
その手をその暗殺者の身体へと伸ばす。
「…嗚呼、嗚呼。
これは––––勿体無い。
将校へ謀をする前に、俺がこれを買っ」
ピキン、と音が微かに鳴った……
そう感じた瞬間。
「は––––」
「ぅぐ……っ!?」
「あが……!」
キリ と糸の張られる音が響いて
その白い着物を纏った暗殺者が、足の鎖を外した。
「…ふん
身の程を知れよ。」
その白い袂の中に覗く、紺色の重。
そこからまた覗く、指の先まで巻かれた
包帯まみれの手が引いたのは
鉄線だった。
「……去ね。」
怜悧な雰囲気のまま、
その暗殺者が、一息の間に3人の男の首を掻き切った。