第1章 荘厳にして、可憐
「笑え」
彼女は昔から、私に、そう言ってくれた。
「貴様は美しい。
どんな表情をしていても、等しく美しい。
ならば笑った顔の方が、良いに決まっているだろうよ」
そんな言葉が、嬉しかった。
でも、私は、頬や首、頭、そして目元に巻かれた忌々しい包帯を解けないでいる。
「…こんな有様の私が美しい…かい?」
「嗚呼… 妾は偽りを嫌うのでな。」
彼女がそう言い、少しだけ笑う。
頬に付いた血が、静かに輪郭を伝って、ぽたりと落ちる。
私は、そんな彼女に問うた。
問い。
そんなものでは、ないのかもしれない
答えなど最初から期待していない。
彼女だって、それを判っている。
「ねえ、私、何の意味があって
生きているのか…判らないんだ」
マフィアに入れば何かがわかるかと思っていた。
生きる理由とか、私の意味とか。
取り留めもないことばかりが浮かんでは消え、流されてゆく。
膨大な時間の量に押し潰されてゆく。
「ならば妾のために生きるが良い。
妾のために笑い、妾のために死せ。」
傲岸不遜、天上天下、そしてこの世の何よりも美しいもの。
私は、彼女の存在を
そんな風に捉えている。
返り血で真っ赤に染まった花嫁衣装を身にまとう彼女が
まるで聖母のように私にそう言い放つ。
「貴様は美しい。
この有様の妾に比べれば、何倍も、何倍もだ。」
彼女の濡れた瞳が、私を射すくめた。