第26章 Scarlet Heart…III
時刻は真夜中2時を回り、虫の声も車の音も
全く聞こえて来ない。
ちりんと夜半に響き渡るのは微かな鈴の音だけ。
風鈴とか、そういうのではない。
「…………」
探偵社員が寝泊まりしている宿舎には、一人ずつの個室が充てがわれている。
乱歩と福沢、真冬は大きな部屋に三人だが。
常夜灯の掻き消えそうな橙色の光を点けて
太宰は一心に本を読んでいた。
「…………」
薄く開けられた窓からの風が御簾を揺らして、
外から夜の土の香りが入ってくる。
常夜灯を消して、そろそろ寝付こうかと思っていた。
ちりんとそれはまた鳴った。
まるで自分を誘っているかのようで
ある虎はどこからか声を聞いて狂疾したらしいが、それと似ている。
窓を閉めて仕舞えばいいだけの問題なのに……
太宰は片手でぱたんと本を閉じて、目を細めたまま すっと立ち上がった。
りん、と鈴音は先程よりも強く鳴っている。
領地を侵犯する者を拒んでいる。
ちりん、ちりん、と音は響く。
夜の静けさを裂いて、風に搔き消える事はない。
玄関口から靴を持ってきて窓から軽々と外へ出、鈴音を辿る。
りん、と音がした。
鳴子のようだった。
領地を踏みしめ進んでゆく太宰に、鈴音が叩きつけられる。
「……ふう……なんだい、この現象……
私が侵犯するのを、そんなに許せないのかな」