第26章 Scarlet Heart…III
真冬が
武装探偵社が滞在しているという宿舎に戻ってきたが、
「なっ––––!」
すぐにそんな声が響き、ばん!と真冬のいた部屋の隣の部屋の襖が開かれる。
「あるじ殿、ぼろぼろではないかや!」
「いや……深傷ではない。落ち着け、真冬」
ぼろぼろなのは一見して判る。
肌に傷はないが、社長の着物の端々が散り散りになっていた。
どちらかと言うと肌に生傷が入ったのは、獣と争った国木田だ……
「妾は正気だ。至極落ち着いている。
福沢殿が怪我など、珍しいと思って」
真冬が与謝野女医からカルテを受け取り、さっと目を通す。
骨や筋肉繊維に支障はない。
「斯く言う真冬も、大義であった」
「フ。あるじ殿に言われればね」
真冬が満足そうに微笑み、自分の頭をなでる福沢の手に寄り添った。
ゆっくりとしたその動きは、真冬の、穏やかに伏せった睫毛の影を揺らす。
「約束だったからな」
「覚えててくれたのさね。妾は嬉しい」
座布団に正座する真冬の長い黒髪が踊る。
同じく、真冬の真正面に座している福沢の銀髪とは、対照的だった。
「ところで……新入社員の事なのだが」
「ん……嗚呼……」
ゆっくり、その黒く濁る瞳が開かれる。
福沢の水銀色の目が、その燻みをじっと見据えた。
「なにがあっても、真冬は私の身内だと突き通すからな。」