第26章 Scarlet Heart…III
繭を真っ二つに切り裂くと、肉を断ち切る感触がした。
「……ハ。脆くて、 呆気ない……」
……懐かしい
ずっと忘れそうで、それでも どこか
頭ではなくこの体が覚えていた感触。
刃先が円環を描いて 刃が血に濡れて、ぐるりと放射状に血が散った。
汚れ仕事は、手慣れた物だった。
暗殺を生業にしているのだから、諜報や斥候もお手の物だった。
"外套と短剣"、暗殺者や間諜にこういう言葉が使われているのも皮肉である。
ぴたりと真冬が動きを止めた。
その耳が、微かな足音を拾う。
すぐに気配を殺し、感知されないように影に紛れる。
「…………」
無意識に糸を手繰る指に力が入り、袂から抜き身の刃を取り出す。
内側の襦袢に隠した鞘なしの刃物。
暗器として、そして実戦でも応用の効く飛び道具。
視界は良くないし、暗殺者は皆 夜目が利くから
この場で得手を取れるのはこちらだ。
でも……
「 ––––。」
真冬は、身を翻して反対側の勝手口に向かう。
視界の端、奥の方で
異能力の光がした気がした。