第26章 Scarlet Heart…III
一方、半日前。
「……チ、気味の悪い……」
ひらりと真っ白い着物の裾が、暗い通路に発光するように閃いた。
こつ、と軽量の足音が大理石の廊下に響き渡る。
ぼろぼろになった えんじ色の絨毯を踏んだ途端……
じゅく、と風化した物に水が染み込むような、押し出されるような音がした。
血液か。
えんじ色だから、紛らわしかった。
「……人間のさなぁ……これは」
血腥い雰囲気が彼処に漂い、劣化した木材の匂いもする。
すらりと鞘から武器を抜き、手近な小部屋から物色してゆく。
まるで廃病院の手術室のような 空気……
窓硝子は割れていて、カーテンも裂けている。
埃臭い、かび臭い、血生臭いときた。
「…………繭……?」
どす黒くて、蚕の繭のような、楕円形で天井から吊るされている部屋。
怪しげな紫色の光を細々と放つ、この雰囲気は……
「異能力」
異能力が発動するときに、文字帯が帯びる光。
それと、よく似ていた。
この部屋に収納されているこの繭玉の群は、幾つか破れている。
蛹の殻はもうない。
「こんな暗殺者に、倫理観も道徳も無いと思っていたのだが……
この光景は些か……人間としてのタブーさね」