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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第4章 静謐に佇む





「ふ、たまにはこのような夜も良いではないかよ」

「そうだねぇ」


しん、としていた。

物理的にも。
心理的にも。


何しろ、その2つの声が聞こえてくるのは
『ポートマフィア』本部の高層ビル、最上階。


つまりは、ポートマフィアの首領の執務室が占める階。



西洋の高級ホテルを思わせるロビー、廊下、昇降機に至るまで
塵のひとつ、指紋の汚れすらない。


首領執務室の前には、全身黒スーツの警備隊が立ち並び、

その執務室の扉前にから昇降機に至るまでには
毛足の長い臙脂色のカーペットが敷かれて

その昇降機は近未来の空間移転装置を思わせる。




執務室前の黒い背広の警備隊はピクリとも動かずに、その扉の前に直立不動の姿勢を保っていた。



騒ごうものなら、この執務室の中にいる首領––––

の前に、首領の汚れ役を引き受けている暗殺者によって掻き切られる。



執務室内の床から天井までもある大きな窓ガラスの側には
小さなテーブルと猫足のソファが2つ、向き合うように置かれ

そこに御座しているのは、ポートマフィアの首領と、その首領が所有している暗殺者。



部屋の中は、二人きりだ。



空気が、重い。

というのは第三者からの心理であり
この中にいる二人には、慣れたものだが……




「真綿君がうちのマフィアにいることで、可能性というのは随分広がるものだねぇ。

私としては、君には感謝しきれないほどだ。

君の一番を優先させてあげたい」




ポートマフィアの首領……
森鷗外が片手に持ったワイングラスを傾けて

そう白々しくも、微笑んだ。
好戦的な笑みだ。




「一番?

妾の一番など、決まっているさね」


一方の真綿は、そんな白々しさを笑うかのように
その黒瞳を細めて、口元を愉しげに歪めた。




「真綿君の一番は、私だ。」

「そうだとも」




森の言葉に、間髪入れず そう答えた真綿。


その気持ちにも言葉にも偽りはなく、自身のあるじであるこの森に
己の一番を委ねることにいささかの躊躇もない。


言葉遊びのように、両者は淡々と会話する。

まるで爆弾の投げ合い状態。




真綿にとって、自身のあるじとなる前の森には、

小指の爪ほどの興味もなかった。




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