第26章 Scarlet Heart…III
「––––……」
福沢に向かって高速で飛んでくる錫杖の突き技は
太刀の刃渡りで錫杖の柄ごと払いのけるしかない。
……日本が誇る、世界一切れ味の良い刃物。
日本刀。
弱点は、腰や肩……
剣道で当たり判定の出ない関節部限定の突き技。
縦横の斬撃は凄まじく斬れるが、
突きによる一点集中を防御するには斬り払うか跳んで回避するしかない。
「っ!」
「く……!」
短く息を吸って、刀身を垂直に振り下ろした。
紙一重で少女が右に回避する。
少女の 舞った長めの髪の毛先が、綺麗に切り落とされる。
「––––!」
凄まじい速さで跳ね上がった上向きの刃の横腹を錫杖で弾く。
その動きは読めていた。
福沢は、その刀の剣技もさることながら
探偵社一、そしてかつて政府一の武術家……
"孤剣士銀狼"として暗躍していたときの腕は鈍っていない。
掌底を少女のがら空きになった袈裟へ放つ。
「くっ……っは……!?」
急いで引き戻した鎖の間を縫って、その打撃は入った。
けほ、と咳き込む少女が前方へと体勢を崩す––––
「……それは、ポートマフィア独自の体捨流か」
一般人に今のを放てば、その衝撃で
激しく嘔吐していてもおかしくはないほどの強度でやった。
それくらいしないと勝てない。
【U––––uuuuuu––––!】
その瞬間。
サイレンのように甲高い咆哮を、
少女が使役していた獣が哭き叫んだ。