第26章 Scarlet Heart…III
月夜に 三人と一体の影が、踊るように 舞っている。
幾度も剣戟に反射した月光が煌めき、甲高い金属音を掻き鳴らす。
「ふっ––––!」
「この……!」
爪を光らせ飛び込んできた獣を往なし、太刀を上手に持ち替える。
刀の刃先をそのまま対象の直上へと振り下ろし、肉迫した。
添えた左手で柄を押さえ、直前で回避した騎手の左を突き抜ける。
「舐めないで、ください!」
獣から飛び降りるように跳躍し、福沢に向かって金属錫杖を叩き込んできた。
少女が走った軌跡を追うように、手綱鎖の音が響き渡る。
「国木田はそっちの獣を頼む」
「やってみます」
言葉を交わすだけの間にも、激しい迎撃が迎え撃つ。
休む暇なく 隙あらば自分の首を狙って来る少女は、手練れの技量に相当する。
「逃がしません!」
「素晴らしい刃の速さだ。鍛錬を余程 積んだのであろうな」
己の身の丈よりも長い錫杖を、軽々振りかざす少女の足を狙う。
軸になっている右手は上手で、錫杖の末を掴んでいる左手が逆手だからか
背中を狙って後ろから斬撃を与えても、錫杖を横へ倒せば左が上に揚がってくる。
そのために刀をほぼ確定ではじかれてしまうのだ。
「––––はぁっ!」
「……っ!」
少女が、初めてこの戦闘で凛とした響きの気合いを発した。
棒高跳びの要領で、少女が空中で素早く体勢を変えて
錫杖を頭上から真下へ振り下ろす。
力任せに金属製の錫杖を地面に叩きつけたのに、強度で負けたのはコンクリートだ。
クレーターのように陥没し、一点をえぐるように陥穽させた。