第25章 Scarlet Heart…II
嘘も方便……とは言ったものだ。
息を吐くかのようにするりと口を吐いて出たのは、
限りなく真実に近い虚言。
「……ここか」
これがバレたら、きっと中也にものすごく怒られてしまうだろう……
そんな覚悟など、とうにしていた。
「んー……説却……どうしようかな……」
こつこつとゆっくりとした足取りで、彼はごく普通に進んでいた。
街を行く人のように、日曜日に出掛ける少女のように
ごく普通に。
影のようなどす黒い蚕の繭が
たくさん、おびただしく並ぶ廊下を、憚ることなく進んでいた。
一般人が見たなら、絶叫するような
少女が見たなら金切り声を上げそうな、グロテスクというに相応しい廊下を。
「……ある程度の目星はついているけれど……
さすがに、『一部屋』ずつ壊して進んでいる時間は……」
すっとその澱んだ紺色の瞳を、前方へ向ける。
「ない事くらい判っていたさ」
禍々しく煌めく、鉈の刃。
目視出来るだけでも、その数、五人。
「やれやれ……僕に肉体労働を期待しないで欲しいなぁ……
こっちだって、加減と言うものがあるのだから」