第25章 Scarlet Heart…II
踏み越えてはいけない一線。
三島幹部の過去なんて想像すら出来ない。
「菜穂子、車回してこい」
「はい」
ワゴンを黒服さんに片して貰い、中原幹部が支度をする。
私はキーを受け取り、幹部執務室を後にした。
「……あー、三島? 今どこだ?」
中也が携帯を片手で操作しながら電話相手にそう問うた。
鞄に諸々の資料のファイルを詰めて、黒手袋も忘れない。
自身のトレードマークである帽子も鞄の上に乗せ、ホルスターを肩から吊るす。
「病院の理事長室? なんだ、緊急搬送でもされたら……え?」
片手間にネクタイを締めて鞄を持つ。
ドアの鍵はそばに侍る黒服が閉めた。
鞄を黒服に持たせて、車を回させたロータリーに向かう。
「あァ、先に手を打ったのか。
判った、俺らはその軍警を回収すりゃいいんだな?」
《うん。頼んだよ》
電話の向こう、何事もないような穏やかで理性的な声が聞こえてくる。
「車にサツ乗せるとか落ち着かねー……」
《僕も中也たちと合流したい……のは山々なのだけれど。
そうにもいかなくてね。ちょっと遅くなるかも。
夜までには帰るよ、一人の時にバージンキラーに襲われたくない》
「迎え寄越すか?」
黒光りする車の ドアの隣に菜穂子が立ち、ドアを開ける。
電話中だと手だけで知らせれば、頷いただけで返す。
《ううん、要らないよ。
予想の内では何とかなるから》
こいつは俺が考えている 此度の事件よりも
どこまで上を読んでいるのだろう、だなんて
判るわけねェか。