第24章 Scarlet Heart…I
時速三百キロだなんて、正直戦いたくない。
こちらが逃げたって九分九厘、十中八九 追いつかれて噛み殺されるのなら、
向こうが退きたくなるようにしなければならない。
「……噛み殺されるか、轢き殺されるか」
【––––Guuu––Rrrrrr……!】
獣が哮っている。
唸りをあげ咆哮をあげ、猛っている。
「––––……」
「––––ふッ」
張り詰めていた糸が切れた途端、双方が動いた。
縮地で獣の真下に潜るように掌底を放つ。
この異能生命体たる獣に防御能力はないのだろうか。
ならば、騎手の彼女ではなく獣を––––
振った太刀筋に月光が煌めく。
ぎぃん!と刃と刃がぶつかり合う音が空に散った。
「……だろうな。
獣が人間に御されるのなら、騎手の腕が良い者だ。
獣に防御能力がないのなら、人間が補うまでの事……」
自分の刀に噛み合ったのは、金属で出来た
手綱錫杖 だった。
自身の獣の腹を掻き切られる前に、その錫杖で食い止めたのだ。
「––––読めてます」
自分よりずっと頭上から、冷静な声が響いて来た。