第24章 Scarlet Heart…I
「……敵……?」
背の高い獣の首の毛を掴みながら、こちらを睥睨してきた騎手。
「……あの。
それを殺したという事は
多分……敵……ではない、のですよね……」
平坦で物静かな声が一定に響く。
頭上から声がしたかと思えば
獣がかがみ、その背を滑るようにして降りてきた女性。
「貴公は何者だ?」
「それを言う訳にはいきませんので。
申し訳ありません」
「……成る程、間者……或いは」
政府、あるいは司法省の回し者ならば
身分を訊かれて名乗らないのは愚策だし、名乗れないのはおかしい。
だとしたら––––
「……ポートマフィアか」
確かに、探偵社と異能企業は政府に与した。
ポートマフィアも、政府とは停戦中だ。
しかしそこに、どうして探偵社とマフィアが 争わないという事が言える?
政府も司法省も臭い物にはフタ、対岸の火事など視界にも入れない。
探偵社とマフィアが争ったとしても、その重い腰を上げることはないだろう。
「…………」
一度 納めた刀に手を掛ける。
すでに相手はいつの間に戻ったのか、獣にまたがり
いつでも飛び掛かれるように前方斜傾の体勢をとっていた。