第24章 Scarlet Heart…I
「ふ ––––」
「【独歩吟客】!」
真夜中に、閃く剣先の光と
青白い波紋のような文字帯が、幾重にもなって描き出されている。
異能力発動の合図である……
すでに二人の周りには、視認出来る限り三体ほどの
『からになった影』の屍が散乱している。
「数に限りがある筈だが……」
「やり辛い……っ」
社長の太刀が鉈を叩き落とす。
そのタイミングで、国木田の【独歩吟客】が発動し、
顕現したのは《煙幕弾》だ。
煙幕は敵にこれから急襲を掛けると悟られやすい戦法だが、
夜中の霧ほど迷惑なものもないだろう……
「……」
ただ、相手のバージンキラーも黙って殺られていく訳もなく……
細々と、そしてだんだん二人にかすり傷をつけてゆく。
気配も殺気も薄くて読み辛い……
「––––ッ!」
袈裟懸けに鋭く切り込んできた鉈が、霧を裂いた。
鉈は福沢の太刀よりも短いぶん、
間合いが狭いものの、小回りが利くので
振りの動作が大きくなってしまう太刀では不利。
刃がこちらへと打ち返ってくる速度も相当だ。
と、その時、国木田のポケットに収まっていた携帯が蠢動した。
勝手にスピーカーボタンが起動したらしく、
押す手間も なく相手の声が聞こえてくる。
『社長、国木田!聞こえてる!?すぐにそこから離れるんだ!』
大きな声が道路に響き渡る。
乱歩の声だった。
「……?」
「しかし、今は––––」
二人が鉈を押さえ込みながらも問えば
乱歩がしびれを切らしたのか『嗚呼もう!』と言ってくる。
『この反応は、バージンキラーじゃあない!
でも、絶対 味方でもない!
もう接敵するよ、信じられないことに相手は時速三百キロ!』
何だそれは、新幹線より速いじゃないかと言う前に
もの凄い足音を立てて、巨獣が空から降ってきた。