第23章 Garden of Daydream…IV
「……私は、三島幹部を愛していますから」
ふと笑った菜穂子が
表情を変えない三島を真っ直ぐに見つめていた。
その双眸には、今すぐ答えを貰えないことへの不満は一切ない。
むしろ、その答えを三島が出してしまうことへの恐怖があるように思えた。
「……あ、えっと……これは…誤算だな。
こういう時、何て言えばいいのかが……判らない、だなんて。」
苦笑した三島は、珍しく 言葉通りに参っていた。
エラーを起こしたように、その瞳には確かな動揺が混ざっていた。
「申し訳ありません。
でも、私は、諦めることをとうに諦めました。」
「……そう……。
謝る事じゃあないよ。でも、珍しいね。
上橋が、そうやって言うのは」
「それは?」
「以前、僕が君の告白を無かったことにしたのを覚えているかな」
驚いた。
驚いて、言葉を失ってしまった。
目を丸くした菜穂子が、その目をゆっくりと戻していく。
わずかに潤んだ瞳が、細められた。
あの時の話題を、三島幹部が蒸し返すなんて……
「……はい。勿論です」
「うん。僕は、来る者拒まず去る者追わずの体を貫いている。
それが僕が生きているうち、一番適合した生き方だからだ。」
それは判っています。
その方が、誰も傷つかないから……
でも、対価として、誰の願いも叶うことはない。
誰の想いも、遂げられることはない。
延々と現状維持だけが残され過ぎてゆく。
「僕を選んでくれたことに感謝を抱かない事はないよ。
でも、僕はその感謝の程度が判らない。
良心がないから、破綻しているから、
だから僕は上橋を幸せになんて出来ない。」
初めて、こんなにも
冷たい三島幹部の言葉を聞いた気がした。