第22章 白と黒の境い目…太宰治誕生日 6月19日記念
「太宰、早く来ないと。
この夢は無尽蔵な時間の流れの中に存在している訳じゃないよ。
まだ見えない夢の狭間……まあ、末端からだんだんと崩れている。」
「 ! 」
先を歩く三島の全身が、春の霞に惑わされるように少しずつ消えつつあるのが
今見ているのが本当に夢なのだ、と思い知らされる。
「ねぇ、太宰。」
「ん?」
君は振り向かないで、私に問いかける。
ざわざわと波が揺らめき、光のかけらが彼の隣に渦巻いている。
まるでつむじ風にくるくると戯れる木葉のように。
それに目を奪われる寸前、
「君、どうしてこの夢を望んだんだい?
夢の番人たる僕まで引っ張り込んで。」
そう言った三島君がようやく振り向いた。
ざわりと景色が揺らぎ、空や海が歪んでいる。
夢が少しずつ弱ってきているのか。
それと同時にその光の粒子も霧散した。
「判らないことだらけだ。
この夢は、三島君が見せているものじゃないだろう?
私が、ただ単に、彼女に会いたいと思っているだけで
存在する意味を得た夢なのかもしれない。」