第3章 汚く濁っても
「…おお。」だの、
「ほお。」だの、
先程から簡素な感嘆しか喋っていない師匠の後ろを歩きながら中也は、敵を睨んでいた。
…というよりか中也の目つきが悪いから
睨んでいるように見えるだけだ。
「すごいものよな、それでも夜襲を謳うつもりかや。」
派手に戦闘音を立てて、敵は激昂し、マフィア側は防戦していた。
こんな夜に音の立つ金属類の武器を(銃も然り)
惜しげも無く使う敵は、相当マフィアに恨みがあると見えた。
「…ふ。夜襲というのはだな––––」
嗚呼 来る、と中也は思いながら目を細めた。
「こうするのだと知れ。」
ピンッと微かな衣擦れの音が
鳴ったか鳴らないか、そんな弱々しい音を立てて。
そんな音の弱さに似合わず、
「う––––わぁぁぁああっ!?」
「ぎゃあああぁっ!」
「痛い––––痛い痛いィィっ!」
敵幾人かの阿鼻叫喚が、一斉に響き渡る。
一息の間に 真っ赤に彩られる視界一帯。
「糞ッ、奇襲!奇襲ー!
どこか––––…」
恐らくは敵の長か、あるいはその班の班長だろう者が
通信機を手に、叫ぼうとした時。
「はぐゥっ!?」
珍妙な悲鳴と血を撒き散らして、どしゃりと顔面から倒れた。
じわり、とそのうつ伏した身体の下から、血が広がる。
その頑強な身体の太ももから
胸、喉、目にかけて一線に切り裂かれていた。
「くそ!こうなりゃ、全部 吹っ飛べ!」
自爆覚悟で 敵の一人ががグレネードを抱え込む。
味方諸共を巻き込んで、吹き飛ばすつもりか。
今、真綿の姿は中也の前にはない。
夜目の効く中也にも、その姿は見えない。
もともとこういった夜戦や夜襲は、
真綿達の……
暗殺者の常套なのだ。
「愚か者。」
「……!」
ひどく寒気の催す声がどこからか響いたかと思えば
男の身体が、敵地の床に叩きつけられた。
(あ……)
目の前に、糸を引き寄せる死神が見えた。