第3章 汚く濁っても
「……入ると良い。」
言わずとも判る。
ドアの前にあるその雰囲気は、常人とは異なるものだ。
「うん、失礼するよ」
かちゃりと音を立てて入ってきたのは
血のように、そこはかとなく赤いような黒いような
そんなストールを羽織った、我らがポートマフィアの首領
「…ほう。 珍しいこともあるじゃあないかよ。
どうしたのだ森殿。
このような暗殺者の部屋に単身で来るなどと。」
真綿が不敵に笑い、中也はソファから立ち上がり
真綿の斜め後ろに行った。
「中也君が君の部屋に入ったのは確認済みだったからね。
この部屋に毒が充満していることはないわけだ。」
どうやら確信犯だったらしい。
彼がくすくすと笑い、部屋に入って来る。
「…ちょっと行ってきてくれるかい?」
そして、そう言ってきた。
和かに微笑みながら。
まるで、稚児にお使いにでも行かせる親のように。
どこに、と聞かずとも判った。
首領に仕えた時間とは
真綿にとってはそれなりに長く、
具体性にやや欠ける命も、当意即妙に受け取れる。
主語が無くても通じ合えるのは、
暗殺者として真綿が人間を調べ尽くしたからか
それとも森と自分の関係の深さからか。
「貴殿がそう、言うのならば。
妾はその命に従うのみ。」
中也を連れて、真綿はすぐそこの戦場へと向かった。
その足取りは、弟と一緒にスーパーにでも入るかのような
気楽な足取りだった。