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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第3章 汚く濁っても





転倒した身体は、言うことを聞かない。

立てない、喋ろうにも


(し、舌が…っ!?)


舌が、手が、全身が痺れていた。



「ど……く、か」

「そうだとも。毒さね。」


辿々しい言葉しか吐けない。


顔の上がらない自分の頭上から
どこまでも怜悧な死神の声が聞こえる。



床に這ったまま愕然と
声を漏らすことしかままならないだなんて

そんな屈辱をいつまで続ければいいのか。



「がぁ…っ!」


瞬間、男の身体が吹き飛んだ。



熱い。

腹が、熱い。


「仕込み…刃…」


灯の消えたアジトの玄関に差し込む月光の光。



きらりと光ったのは、今しがた
自分を蹴った相手の履いている靴からはみ出ている、仕込みナイフ。


悶絶した自分の身体をさらに蹴られ、意識が明滅した。



倒れた相手をまたさらに蹴り飛ばすなど、非道な行為だ。

戦闘には、付き物だが……



「弱ったエモノで遊ぶのは時間の無駄だ。」


凛とした声だった。


見上げた死神は、ひどく綺麗な顔をしていた女だった。




「は……、なんであんたが……
こんな、僻地にいる…」



その顔は、政府だって喉から手が出るほど欲しがるものだ。

毒だと知っていてもなお、吸いたくなる蜜。



嗚呼……自分は、この顔を見たことがある。




『特A級危険異能者』––––。


本来なら……

マシンガンを装備した警備部隊に囲まれた
鉄格子の中で監禁される指定者への揶揄言葉。



内務省異能特務課から奪取した、危険異能者リストにあった顔だ。



「日本……に…」


目の前に糸が迫り、プツリと意識も、鼓動も、途絶えた。
自分の人生の最後に見た者があれならば、まだ価値はあった。




「終いか?」

「嗚呼。」



中也の方へと振り向く真綿の綺麗な顔に

血は付いていない。



「…さて。 森殿に報告にでも行くかや。」





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