第21章 Garden of Daydream…III
「……名を?」
《うむ。そうだ。》
重い願い事を任されたな、と福沢が笑う。
《妾は福沢殿に名付けられたい。理由はそれでは駄目か?》
「いや、充分だ。」
電話の向こうで、彼女が嬉しそうに笑ったのが聞こえてきた。
名前と言われても、すぐにパッと浮かぶような良い名は––––
「真冬。真冬は?」
《おお、乱歩か。》
福沢が持った受話器を取ろうとぴょんぴょんしていた乱歩が
唐突にそう言った。
《真冬……うむ、良い名だ。ふふ。真冬。真冬。
あるじ殿……妾は真冬だ。良い名だろう?》
静かに、尊ぶように名前を反芻させる真冬が
呟くように言ってきた。
「嗚呼……ずっと前からそうだったような響きがする。
真冬。良い名前だ。」
《これで苗字に福沢真冬ときたら、妾とあるじ殿の関係が変わるな》
からかうように言った真冬の言葉に
福沢が先ほどのイナバの女店主との会話を思い出した。