第20章 Garden of Daydream…II
菜穂子に渡された黒いファイルの中身を捲る。
どんな奴がどんな風に殺されたのかが諜報班により事細かにまとめられ、
ついでに深く調べ直したのであろう三島の追記。
綺麗な字だった。
この夥しい死の記録に、何も感じずに黙々と作業する三島の様子が思い浮かぶ俺は、もう駄目なのかもしれない。
「……ン? なぁ、三島。これは?」
「…嗚呼…それねぇ……」
赤い文字で書かれているその文面に眉を寄せ、花を摘んでいる三島に尋ねた。
「あン?……死んだ奴らはみんな去勢されていた、だぁ……?」
そう、と三島が言って土を拭って手を洗い、こちらへと来る。
「……」
「判らないって顔しているね、上橋」
「うっ」
眉を顰めていた菜穂子を
当意即妙に読み取った三島が、苦笑してそう言う。
「……は?去勢の意味か?
知らねェの?
それはな、男のタ––––
ッ……ィいっ…てェ!?」
悪態を言いかけた中也の眉間を、三島がぺしんと叩く。
「オイ三島!手前なぁ!」
「あのさ、上橋……にも限らず……
無知の女性にはもっと綺麗に教えなよ」
無知と言われて菜穂子は随分昔のことを思い出した。
あの頃は、まだ、自分のそばにはあの暗殺者の彼女がいて……
「綺麗だァ?なら、なんて言やぁいいんだよ」
「うーん……。
……あ、そうだ。
上橋、オオイヌノフグリって花を知っているかい?」
いつも通りににこりと笑った三島の顔は、からかっているように見えた。