第19章 Garden of Daydream…I
「––––……」
その日の夜。
昼間聞いたイナバの店主や警察の話をゆっくりと思い返していた。
こつ、こつ、とその足音は
一定間隔でにわざと靴音を立てる歩法を用いられている。
つまり、後ろから来ていたり前にいる人間に
位置を知らしめることができる。
「––––……」
男が狙われているのだという。
襲われた男は、その象徴を切り落とされた挙句
殺されるのだという。
「––––……」
男を殺して何になる?
確かに、切った男のそれはドナーとして超値で売れる。
ただ、それだけか?
それだけか。
何かが違うと思った。
男が減ることで何を得るのか。
「––––嗚呼…もしかしたら……」
面白そうに肩を揺らせて笑った彼女が、黒瞳を細めた。
夜の道を歩く足をぴたりと止める。
獣の咆哮が聞こえた訳でもなければ
目の前に横断歩道がある訳でもない。
耳のいい自分には、すぐそこで鳴っているかのように聴こえてくる。
相手の、殺した息遣いの音が。
「––––ふむん?」
獣のそれよりも静かで、植物よりも荒い。
静かに、潜めるように、静謐に。
「出てくるが良い。
今は妾一人故な……」
目を細めたままの、袴を着た暗殺者。
月の下で浴びた光が、その目を映し出した。
「ゆっくり、じっくり……
いたぶる様に貴様の相手を愉しんで申し付けようか。
貴様が罪を認めたとき、
妾が笑いながら殺してやろう。」
腰に差した小太刀に手の平を掛ける。
すっと左足を下げて、わずかに腰を落とした。
「何、妾には不思議な力があってな……
貴様の様な人間でも、血が赤いということを––––」
くっと不敵に笑った顔は
かつてのあるじのそばにいた時、浮かべていたもの。
見る者をぞっとさせる、本来の彼女の顔。
「その身で以つて、知るが良い」
すらりと澄んだ音をたてて、
妾は獲物を引き抜いた。