第3章 汚く濁っても
「でも 400、ねェ…
先に真綿が6割削減するンだろ?」
中也からの問いに、真綿が頷いた。
「うむ。中也が行く2日ほど先に行き、敵戦力を削がねばな」
「なら、まァ、大丈夫か。2人でも」
無論、この幹部と準幹部二人きりのというわけではない。
マフィアの方だって、少なくとも100人は連れて行く予定だ。
「だがよォ… 100人も必要か?」
「備えあれば何とやら、だからな」
その資料には、連れて行く100名の名が書き連ねられている。
「何、中也が50人で良いと思うのなら半分にしても良い…と思っているさ。
部下の命を無下にしたくないと思っているのか」
真綿の細めた瞳が、中也を見た。
「いや? 真綿と一緒なら半分でも……とだけ」
「買い被りすぎかよ」
呆れた風に息を吐く真綿。
その長い黒髪が揺れた。
「言っておくが、汚濁は使わせぬからな」
「判ッてるよ… 太宰の野郎もいねェしな」
中也の【汚濁】は、中也本人の意思は無関係に
暴走しまくるという【汚れつちまつた悲しみに】の異能最終形態。
太宰の異能無効化の【人間失格】がないと鎮まることがないため
中也が【汚濁】を使う際には太宰も必ず組み込まれるのだ。
「ただまあ、その先の竜頭抗争で資金が危ぶまれているのだろうよ。
50人ね。それも考えてみよう」
幹部となると頭の回転が恐ろしく早く、
太宰ですら戦況を300手考えつけるほどだ。
加えて真綿は暗殺者。
初太刀は失敗する事を前提とし、次の一手を行使する。
暗殺が当初の計画通りに進むことはまずない。
「真綿、この一年の話とか聞いてもいいか?」
「嗚呼、構わないさ。こうして報告書を書いているからな」
熱いコーヒーに混じったミルクの白みが、くるりと廻る。
薄く立ち上る湯気が溶け消える。
「真綿にとってあの男とのあの一年は、どんなものだったンだ」