第18章 色彩
「……私は……、ずっとずっと前に……あなたに、救われました」
「……そう」
花が彩る白昼夢の中、夢うつつに微睡む娘がそう言って目を細めた。
花びらが視界を舞い、淡い虹色をした蒼穹に吸い込まれるかのように花が舞い上がった。
あなたが覚えていなくとも、あなたに殺されるのならば
それは私の本望だと、その昔からずっと思っていた。
今でも……
「……私……は、彼奴らの手先に……なっただけ……
それでも……ポートマフィアに知られれば……
こうなるって、見捨てられるって、切り捨てられるって判っていました……」
娘がぽつりぽつりと敵のことを話し出したのも、三島の強かな計算通りだった。
幹部の頭脳は、常人のそれよりも凄まじく回転が速い。
ポートマフィア幹部一人が、国家の戦略参謀に勝るだなんてのは噂だが、あながちそれも間違っていなかった。
「……洗いざらい話してしまった私は……殺されるのでしょうね…
……ねえ、だから、お願いがあります…」
ふと目を伏せた娘の肩が震えている。
その双眸を彩る睫毛に涙の粒が付着して、強く唇を噛んでいた。
「……勝手だって……判ってます……でも…私は、あなたに……殺されたいのです」
娘の言葉に、三島の、何を見据えているのかが判らない濃紺の瞳が、一瞬だけ細められた。
「……お願い…します……勝手だって、こんなこと迷惑だって…判っています…っ」
「……そっか」
三島の目は、何かを諦めた目。
何度も何度も失って、補充してきたもの。
諦観が過ぎるたびに、たいていの僕は笑って誤魔化した。
失ったものは、もう元には戻らない。