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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第18章 色彩




「……この傘、使ってください」




失敗した。

失敗した私なんかに価値はないのにあなたはそう言ってくれた。




目を合わせてくれた。

不思議な色をした、紺碧の瞳。




その目を見た瞬間に何かがどうにかなっちゃって、私の頭を、心をいっぱいにまで占めたもの。



「……っで、も、あの、あなたは……?」


頬を流れるものが何か判らない。


激しく降る雨?
それとも涙?

どちらにせよ、その声が掛けられた途端にどちらも止んだ。


……あなたの傘が、私を入れてくれているから。




「……僕は連れがいるから大丈夫。これは君が使うといい。
体を冷やしてもいい事はないからね。女性なら尚更」



こんな私に、雨を、涙を弾く術をくれた人。

夜中を回った暗闇に立ち止まっていた私を
怪しむこともなく手を伸ばしてくれた人。



どうしてあなたに出会ってしまったのだろう。

こんな大雨の真夜中に、今ここで。



どうしてあなたの瞳を見てしまったのだろう。

飢える寸前の獣を秘めた、優しい紺色の瞳を。




「……ぁ、りがとう……ございます……」


髪から滴ったものは、目からは溢れるものじゃなかった。



黒い外套、白い精緻なレースの意匠、
ミルクティー色の髪に、

吸い込まれるような夜空の色をした瞳。



すべてが頭の中にこびりついて、合致した。

悠然と歩いて去ってしまう背が
この闇よりも深くて暗い孤独の中に帰るようだった。





「入れて中也」

「ッたく、手前ェはよォ……」

「代わりに傘は僕が持とう。僕は君より背が高い。
加えるなら歳も1つ上なのだし」

「歳は関係ねェだろ……ッてか、太宰とかより歳上だろ」

「まあね。 肉体の老いって人間らしくていいね」






だから、あの牢の暗闇に


まるであの日の続きみたいに



再び見えたあなたの姿に私は目を見開いたのです。


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