第18章 色彩
「––––、」
すっと人間が普通にするように自然な動作で息を吸い込めば強い花の香りがした。
伏せていた三島の濃紺の瞳が、彼の夢の中で微睡む娘へと向けられた。
「……だから、ごめんよ。
僕の生きる糧になってくれるかい」
手を伸ばし額に触れる。
ん、と小さく唸って三島の包帯の巻かれた手にすり寄った娘の頬を
まるで彼氏が彼女にするように愛しそうになでた。
恋人がする動作のそれとなんら違和感がない。
「 ––––––」
三島がふと笑ってから、夢の中を見渡した。
白いのになんだか水晶みたく景色がふわりと移り変わる。
一口でも甘いのに、なぜかすっと消えていく。
その味が忘れられない。
心にずっと痼りとなって飲み込めずにいるもの。
恋をしている人間の中身とは、こういうものなのか。
……やっぱり、僕には判らないよ……
「……これが、君の夢かい?」
君のためにたとえ世界を失うことがあっても
世界のために君を失いたくはない。
そう思える人が僕にいたのなら、
僕はもっと真っ当なものになれたんじゃないのかな。