第18章 色彩
恋の色だった。
あの一瞬で、彼の紺色の瞳がこちらを向いた瞬間に、
何かが椿の花のようにぽとりと心に落ちていく。
それは波紋となって心に広がった。
恋をしている人間は、瞳をみればすぐに判る。
求めて、欲して、なのに駄目だと自分を戒める。
それが自分本意だと判っているから。
相手の意向に沿わないことが判っているから。
「……うん。やっぱりその言葉が、君には一番効いた……かな?」
目を覚ませば、そこは楽園。
およそ人間が目にすることも出来ない、
この世のどこかにある最果ての花畑。
人間の夢を食む夢魔として三島が生まれながらに持ち合わせた異能力だった。
「おはよう。時間だよ。
急かすようで悪いのだけれど、揺り戻しが来るまでに
済ませて仕舞わないといけないみたいだ。」
ざく、と野原を踏みつけにする音がすぐそこから聞こえて、パッと振り向いた。
その声になぜか聞き覚えがあって、顔が思い出せそうなのに思い出せなくてもどかしい。
私はあなたを知っている。
ただ、曖昧になった何かが貴方の顔にモザイクをかけるように霞んだ。
脳が正常に働かない。エラーを起こしている。
彼の顔を認識するなと警鐘を鳴らしている。
「ようこそ、君の夢の中へ。君と僕しかいない楽園だよ。」
そう歌うように言った彼が、口角を上げて魅惑的に微笑んだ。
ぞわりと本能的に背中に怖気が走り、目を見てはいけなかったと悟った時にはもう手遅れだった。