第18章 色彩
こつこつと靴の音が響いている。
足音もその間隔も、行きに聞こえた時のものと何ら変わらない。
ただ ––––
「………」
三島が脇目も振らずに真っ赤な絨毯の上を歩いて行く。
廊下の左右に侍った黒服たちが、恐ろしいものを見るように目を逸らした。
その手には黒いファイルが握られている。
三島を纏う空気が、彼から逃げて行くように詰まってゆく。
「……うーん……」
三島の紺碧の瞳が伏せる。
瞬かれた睫毛が影を落とし、何かを模索するように一点を見つめ続ける。
何を考えているのか、何も考えていないのか、全く判らない。
ポートマフィアの五大幹部。
その名と地位と名誉が表すものが何なのか。
ヨコハマの地を脅かす、典型的な"悪者"であるポートマフィアの最深部。
幹部級の人間ともなればその頭脳は国家の戦略参謀の束にも勝り、
その手は沢山の人を救うことも、摘むことも出来る立ち位置。
「……やァ、三島君。怖ーい顔してるよ?
君の甘いマスクが台無し」
「太宰。」
振り向いた三島は、いつもの柔らかい笑みを浮かべた。
絶やすことのない、いつもの慈愛的な瞳も。
振り向いた先には、黒い外套を纏ったポートマフィア五大幹部の一人、太宰がいる。
にゃーんと声が聞こえて目をやれば、太宰の腕には三島の部屋で喉を鳴らしていたあの猫がいた。
「……で?それ。」
「これかな?」
「それそれ。」
はい、と黒いファイルを太宰に渡した。
代わりに猫を受け取る。
三島の腕に頬をこすりつけた猫は、安心したように眠ってしまった。
確かに、今はもう夜中の三時を回る頃。
良い子も悪い子も、寝静まる時間。
「わーい」
「不穏なこと言わないの太宰」
呆れた母親のように三島が肩を竦ませた。