第18章 色彩
こつこつと静かな足音が臙脂色の絨毯の敷かれた廊下全体に響く。
すっと三島がその濃紺の瞳を細めて見渡せば、自分の左右にずらりと並び侍った黒服たち。
ここは泣く子も黙る怖い怖いポートマフィアの、首領執務室に続く廊下。
豪奢な設えのされた両開きの扉をノックしようとして、その手を直前で止めた。
「 ––––––……あれ。今の……」
無意識のうちなのか、三島の瞳がいつもの柔和なものに変わった。
微動だにせず ずっと無言だった黒服たちの肩から力が抜ける。
そのまま止めていた手でドアをノックした。
「森さん、三島です」
「嗚呼、きたきた。入っていいよ」
「はい。失礼します」
三島がドアを開けようとしたら左右にいた黒服たちが開けてくれた。
一幹部である三島が恐ろしいようだ。
素知らぬ顔で三島がにこりと彼らに笑いかけ、首領執務室に入る。
(やっぱり……)
ドア越しから聞こえた声には覚えがあった。
「森さん、それに紅葉姐さん。
お二人がいる場に、僕が呼ばれるだなんて珍しいですね」
「由紀や。さ、私の隣に座ったらいいえ」
「や〜 三島君。 済まないね、急に呼びつけて」
中央にある二人用猫足ソファに、ポートマフィアの五大幹部の一人、尾崎紅葉がいる。
そして机を挟んで向かいには首領がいた。
「上司のお呼びとあらば」
「それもそうだね」
「ふ、白々しいのぅ。さ、由紀や」
ぽんぽんと隣を叩く紅葉の方へと、誘い込まれるように歩み寄る。
「いい茶葉が入ったんだ。三島君に味見して欲しくてね」
「おや、それはご丁寧に」
そんなはずがない。
首領がいきなり呼んでおいて、用件がそれだけだなんて絶対ない。
だってここには、
軍警や異能特務課が目を光らせ殺れば賞金首にでもなりそうな、
ポートマフィアの中心核3人が集まっているのだから。