第18章 色彩
「そりゃあね。吠えるし噛むし。
三島君は、猫が好きなのかい?」
太宰の問いに三島が和かに笑い、仔猫の喉をなでた。
チリンチリンとその度に小鈴が揺らぎ、涼しげな音を執務室に響かせる。
「動物は割と何でも好きだよ、僕。ただ……」
「あー……」
三島が眉を下げた、その意味は太宰も判っている。
「チル……」
「うん。昔飼ってたチル、嫉妬した女の子にやられちゃってね。
どうにも僕のこの異能では……僕への狂愛は吸収出来ても、
僕以外に向く嫉妬は夢喰い出来ないみたいだ」
穏やかに微笑んで見せたこの三島だが、チルというかつての彼の猫は頭が良く、愛猫だったはずだ。
毛並みの良いあの黒猫はもう主人の足元には戻ってこない。
あのエメラルドの瞳を主人に向けることもない。
チルが無惨に殺された後、三島は殺した女子には何も言わなかったと聞いた。
骨までぼろぼろになったその遺体を、三島は慈愛的な瞳を向けて埋めていたことも覚えている。
(慈愛なんて、君に判るわけないものを。)
三島の異能力【仮面の告白】のせいで、妙に薄らぎ希薄になった、
愛情。慈愛。慈悲。親愛。
「……ねェ、三島君……」
(そんな風に誰彼構わず付き合っていて、疲れないのかい)
だから、こんなことになるんだ。