第17章 もういいかい?
「私は太宰治。 齢は二十。どうぞ宜しく」
太宰、と名乗った男がその包帯だらけの手を差し出した。
俺は何となく秀麗な顔をしたその男を見、
それから首やら腕やらに巻いた包帯を目でたどる。
「……社員の国木田だ。判らん事があったら、俺か……」
ちらりと見たのは『あの彼女』の席。
ここで墓穴を掘るのは避けたい。
「……否、俺だ。俺に聞け。」
「……、おお! 噂に高き武装探偵社の調査員ですか。感激だなぁ」
今の押し黙ったほんの数秒が気になったらしかったが
太宰は強引に俺の手をぶんぶん振る。
「説却––––ねえ、国木田君、何だか人少ない?」
「嗚呼……、与謝野女医も賢治も出てるからな。」
お前の机はそこだと 国木田が示した。
隣。
散らかしてくれるなよ。
俺の向かいとはす向かいは空席……ではなく
俺のはす向かいは彼女の席だ。
「そうなんだ。忙しいんだね」
ちらりと太宰が、机群を広く一瞥した。