第17章 もういいかい?
嗚呼、あの華奢な腰まで伸ばすのに何年かかったのか。
あるじと言えど、たった一人のためにそこまで出来るのは素晴らしいと思う。
国木田が一人、感心感激していたら、社長が言葉を続けた。
「……名を偽れるかと聞いたら、『あるじ殿が言うのなら』と言った」
「はぁ……」
……何だか少しずつ話の内容と流れと趣旨が……
不穏になってきているような……
「……つまり…その新入社員と何かしら因縁があると?」
「因縁、で済めばいいがな。」
それは悪い方なのですか?
良い方なのですか?
「……だが、真綿とて自らの名を捨てるのは……」
「嗚呼。 真綿の名付け親は、いわゆる肉親ではないらしいが…
ただ、名を捨てるというのは世間的なモラルが、と」
古きは出家した人は名を捨て冠位を求めるために旅をすると言うが
真綿はすでにその冠位を捨てた暗殺者。
「だが、真綿は乱歩にこう言ったようだ。
自分を拾ったのは乱歩なのだから、私が迷うようなら乱歩の考えに委ねても良いと」
「嗚呼……乱歩さんならばその時の最善の札を選ぶでしょう。」
それは悪手ではない。
「……ただ…一介の新入社員に、何故そこまで身元を?」
さっきからポケットの中で蠢動しせわしなく動き回る携帯がある。
どうやら依頼内容が判ったようだ。
……済まない真綿。
「此度の新入社員の彼が、真綿……否、あの彼女…の
過去を知悉しているようだ」
嗚呼……成る程…
それならいっそ…真綿を家に閉じ込めておけばいいのではだなんて
思ってしまった。