第16章 うたかたの夢 …4月1日
「……僕にかい?」
そう穏やかに言う彼の笑みが、私に向いた。
この濃紺の瞳も、ミルクティー色の髪も、この声も
絶対見覚えあるものですのに……
「ええ……きっと、いい出会いになる所ですわ。」
貴方のお名前を教えてください。
ずっと前も、なんだか……同じようなことを聞いた気がするのは気のせいよね?
あの日も、こうしてうたた寝をしながら迷い込んでいた時に
彼の夢へと案内されて……
それが本当に夢のつづきだったのか
それとも……魅てしまったなら、忘れることが約束された
たった一夜の夢まぼろしなのか…
"おはよう、ナオミちゃん"。
その声に縋って、起きたら何も覚えていなかった。
「うーん……」
「どうかしたかい?」
思い出せないことが頭の、何だか出そうなところまでせり上がっているのに……
「ぁ……」
頭を押さえて唸っていた私の手を、彼の手が包んだ。
その指が手の甲をなでる。
ざぁっと花吹雪の風が、私の髪を揺らして花びらを舞い上げた。
「僕のことは、多分…時期に思い出す時が来ると思う。
ただ、今がその時ではないだけだ。
まだ、運命が交わらないだけだよ。」
「えぇ……」
彼の言葉に自然と頷いた。
唇から漏れた言葉も、無意識のうちのものだった。