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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第16章 うたかたの夢 …4月1日


「新人社員の子?」


「ええ。 敦さんという方で……
彼、虎に変身できる能力を持っているのですが…」



ナオミが名も知らない『彼』に身体を預けながらうっとりと目を閉じて、話し始め、

その彼は季節のない花園に棲まい、花を摘み、編み込み始めた。


季節がない、それは言い換えれば
『どんな季節でも花が咲く』ということになる。


しっかりと編まれてゆく花冠に5本目の薔薇が混じり、花弁の小さなコスモスが飾り立ててゆく。

彼の手慣れた作業を熟す指先をナオミが少しずつ眠くなる瞳で見ていた。



「その方、区の災害指定猛獣になってしまっているのですわ」

「嗚呼……それは、まあ、そうだろうね」

そっか、と優しく微笑んだ彼の体温が心地よかった。



白昼夢なら、何をしても許される。

まだこの感情を楽しんでいたかった。



「…判るんですの?」


「そりゃ、勿論。判るとも。

僕だって引きこもりなのは、なんだ、体質……
そう、元々のモノがこれまたとんと厄介でね。」


彼の甘やかな声が耳に入り、微睡む私の瞼をその手がなでた。



「閉じ込めておけば、切り札にもなろう。
それが、『そういう』レッテルの貼られた僕たちの立場だ。」

愚かな人たちへの考えに呆れたように彼の睫毛が伏せって、苦笑を浮かべる。



「幕僚も与党も変われば、産業革命の今だから
改革はシナジーにもなるだろうと思っていたのだが……

ふむ。矢張りそううまくはいかないものだよね。」


コスモスが綺麗に編み込まれ、天輪が出来上がっていく。

確かに感じられる鼓動が聞こえる。



「まあ、《ウォ––––、否、政府はしばらくはどうにもなりそうにない。

司法省との不仲もさる事ながら……連中とて『そういう』面倒くさそうな物にわざわざ手を出さないだろうし。」



嗚呼……そういうことですのね

つまりこの彼は、『そういう』と彼自身が揶揄する範囲に入っているということ…



「……ねえ?」

「うん?」


手を伸ばさずとも、それはすぐに届く距離。

指先に力を込めれば、確かに掴める距離。




「もしもこの夢から覚めて、本当の私に会った時……

貴方の時間をくれるなら、貴方に紹介したい所がありますの…」
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