第16章 うたかたの夢 …4月1日
「ここ……は」
ふと目が覚めると、心地の良い春風が頬をなでた。
目を細く開けると、白んだ景色に映る極彩色の花畑。
虹色に彩られる花の絨毯に、幻想的な朝焼け。
否……朝というよりは……
「朝というよりは……?」
何だろう。
ここに一度、来たことがある気がしたのですけれど……
眠っていた身体を起こすと、微睡む脳から眠気が薄れていく。
「おはよう。」
唐突に後ろから声を掛けられ、私は振り向いた。
視界にちらつく私の長い黒髪が閃き、彼が微笑む。
「 ––––––ぁ……、あ、あ……!」
知っている。
私は、あなたを知っている……!
「おはよう、ナオミちゃん。」
誰……?
知っているのに、名前が思い出せない。
知っている声に知っている体温。
知っている気配。
ぜんぶ、知っているのに。
「僕が誰なのかは–––– 必要ないだろう。
こうして君と二人きりなら、呼ばなくても良いしね」
差し出された手に手を重ねる。
嗚呼……以前も、こうしましたわね…私たちは。
「却説……君の意識を僕の夢に引っ張り込んだのは…
うん、今回はちょっとだけ特別。
ちょっとのイレギュラーも兼ねているんだ。」
「イレギュラー…ですの?」
花畑を二人で歩く。
視界いっぱいに広がる花道を歩いて、時折彼が花を摘み取る。
当たり前のように私に合わせてくれる歩調がありがたかった。
「そう。
この夢、僕の用意した白昼夢ではわりと何でも許されるからね。
こうして眠れていない女の子を連れ込んでは、
眠気を誘うためにピロートークをしているんだよ。」
……ということは……
「夢の外の私は眠っているけれど、意識が眠っていない…ということですの?」
「そう。流石ナオミちゃん。
身体は休んでいるが、中身が寝ていない状態なんだよ。」
花畑の中央に座り込み、彼の隣で微睡む。
すぐそこにあった彼の肩に頭をもたれさせた。
寄り添った私に腕を回してくれる。
「君が眠れていない原因は何か、自分で判るかい?」
「それは––––」
ええ、ええ。
勿論。
原因は––––