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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第15章 花は盛りに


「三島さんっ!」



満月の下、桜が吹雪いている。


せっかく三島幹部の隣を独占出来ていたのに。

せっかく、二人きりで帰れるとか…思って、いたのに…



「えっ––––」

「おっと…」

ひらりと夜空にミルクティー色の髪が揺らぐ。



がしゃん、と松葉杖手から離れて、倒れた。


三島幹部が、飛びついて来た女の人を両手で支えたから…



「な____三島幹部っ!」


不敬な女性は兎も角として、三島幹部!



仕方なさそうに歪められた優しげな表情。


こんなんじゃ…三島幹部は……

また、また……



「上橋、先に帰っていてくれるかい?」

「いやです!」



不敬なのはどっちだ。

自分の上司に嫌だと泣き叫んで。



心に湧き上がる嫉妬と、仄暗い束縛と、面倒臭さ。


三島幹部に縋って泣く女性に

たびたび抱いて来たみにくい想い。


それを三島幹部一人に押し付けて。

その優しさを、利用する私が…いやだ…



「………っ、も、申し訳……っ、」


嗚呼……


喉にせり上がるみにくい嫉妬が

口を開いたら、吐き出されてしまう。



ここにいられない。


「いや、いやよ三島さん……行かないで…」


縋って泣く女の人に

三島幹部は嫌な顔ひとつしていない。



ねえ、やめて……

触らないで…


そんな優しい手で、その人を大切そうにしないで…


道路に投げ出された松葉杖が、月に照らされている。



「……っ」

「上橋」


三島幹部は、私を見てくれなかった。

淀んだ濃紺の瞳は、目の前にいる女の人を眺めているだけ。




「……三島」


じゃり、と小石が踏まれる音がかすかに聞こえて来た。



「中也」

「中也様…」


影に混じって、こちらを見つけたのは中也様だった。



明るい色をした髪がやけにぼやける。

近付く彼が、この現状を見て、息を吐いた。



「こいつ、連れて行くぞ」

「ごめんよ」


腕を中也様に掴まれて、私は首を振った。


腕が痛い。

目が熱くて、なぜか視界が揺れている。


どうして。



「いや……いやっ…!」

「泣いている奴が何言ってやがるンだよ」



中也様の言葉が、耳朶を打った。
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