第15章 花は盛りに
「ねえ。三島君はさ、誰か一人を愛そうとか思わないの?」
かつて、ポートマフィアのその病室で。
太宰がそう聞いたことがあった。
別段、三島に答えて欲しくて聞いた質問でもなかった。
答えてくれないだろう。
そう見込んでの、単なる社交辞令。
ただ、この手の質問は三島にとっても太宰にとっても……
そして、その時そばにいた真綿、菜穂子にとっても地雷だった。
「えー…っと……、太宰…?」
予想通りの反応だった。
私の質問に困った『ように』、人間らしく倣った反応。
眉を寄せて薄く笑った三島君の、違和感のない所作。
「君がいつも唐突に質問をしてくるのは、承知の上だけれど……でもちょっとだけ浅はかだね?」
窘めるような口調に笑う。
浅はか。
そうかもね。
だって、君の好きな人なんて…それこそ承知の上だもの。
「僕は、夢の中の住人だ。
女の子たちが見ている夢に歩いて、その中を勝手に見て……」
三島君は、基本的に何にでも親しみを持つ穏和な人間だけど…
それを本質的に愛している訳ではなく、"社交辞令"程度に収めている。
そう、それも社交辞令。
本気で好きにならないからこそ
なれないからこその生易しさ。
「なんていう偽善で出来た慈愛だろうね。」……
三島君は、そう言っていた。
要は、好きなタイプは『好きになった女性』みたいなことと同じだ。
「好きになるのは簡単かもしれない、だけど
好きになってもらうのはとても難しい…それが普通だろう?」
楽園の彼は、白昼夢に棲まう。
夢を喰い、永遠の時の流れに微睡む。
それでは駄目だって、君だって判っているはずだ……
「僕の【仮面の告白】は、無償で僕を好きになってくれる。
でも、何でだろうね。
太宰の言うその好きを、僕は知らないんだよ」