第15章 花は盛りに
月と星の飾り立てる、三島幹部の瞳のような濃紺の空。
あの楽園にはないもの。
「…おや」
「三島幹部?」
隣を歩いていた三島幹部の携帯が静かに鳴った。
まさか……
今から、とか、そんなのってない…ないよ…
こんなにも醜い嫉妬と付き合うのなんて嫌…
「上橋、そんな顔をしないで。
女性が泣いてしまうのは見ていられない」
途端に聡く気付いてしまった三島幹部が、私にそう言ってくれる。
私の顔は大層 青ざめてしまったでしょう…
「……ッ! 申し訳有りません…っ!」
「電話、中也かからだ。
ほら、笑うといい。真綿からも言われただろう?
笑った顔の方が良いと。」
それは、私が三島幹部と出会った日に
真綿様に言われた言葉だった。
『おお、よくよく見れば愛らしい顔よな。
笑った顔はさぞ美しいのであろうよ』……
そう、言ってくださったあの方は…
(もう、いないなんて……)
三島幹部が真綿様を特別視していた事くらいとうに知っていた。
「中也?」
《手…っ前ェ! どこほっつき歩いてやがンだ!
勝手に楽園から出るんじゃねェ、何かあったらどうすンだよ!》
ものすごい怒号がつんざき、私は細く悲鳴をあげる。
三島幹部は慣れた調子で薄く笑っていた。
これは––––中也様……かなり本気で怒っていますね。
「嗚呼……ごめんよ。
ということは君、今、僕の病室にいるんだね?」
《女なんかに構ってねェで、定時検診までには戻りやがれ》
中也様らしい言葉に三島幹部が ふっと笑った。
その紺色の瞳に光は差さないけれど、中也様が私の分まで心配してくれたおかげなのでしょうか……
先ほどまでの変な、熱くて喉に絡むような感情は消え失せていた。
「心配には及ばないとも。 僕は今、上橋といるのだし、時間は厳守されるよ。
そうだとしても女性の身体を冷やしてしまうのは駄目だ。
早々に戻るよ。」
《……ッたくよ…》
中也様が電話を切ったのか、三島幹部が携帯を仕舞った。
「待たせたね。帰ろうか」
「はい」
二人きりだ……
菜穂子が三島の後ろ姿を追いかけた。
その時。
____「三島さんっ!」