第15章 花は盛りに
そこは夢の中だった。
ふわふわとした無意識の最下層。
全てを許され、ここに住まう花園の彼に会える場所。
どんな所よりも平和で、安寧で、穏やかで。
花々が咲き誇る楽園。
ポートマフィア五大幹部が一人……三島由紀夫が引きこもっている、花畑と化した病室だった。
年中 真昼で晴天。
見上げた天には設えられた偽物の蒼穹がある。
____夜もない。
____季節もない。
何より____
ここには、時の流れがなく……白昼夢が顕現した、
世界のどこか最果てにある不夜不滅の監獄だった。
「だからってっ……、一言…いえ、一筆でも記してからにして下さい…」
菜穂子が乞うように言った。
いつも、人形のように無表情だと周りから言われる菜穂子は、三島の前では憚ることなく発露させていた。
「たまには、外界の空気も吸わないとね」
そう緩く笑った三島が、菜穂子の頭をなでた。
菜穂子が恥じるように頬を染め、けれども嬉しそうに笑った。
そんな菜穂子の様子に、地面で行儀よく侍っていた獣が
わふ、と息を吐く。
これが、上橋菜穂子の保持する異能力。
自身が奏者__主人__になって、王と例えられる獣を召させ、従わせる。
異能力名……【獣の奏者】。
「星見……していたのですか…」
「そうだとも。 …何していたと思っていたのかな?」
三島の濃紺の瞳が少しだけからかうように細められて
菜穂子がその視線に照れたのか、言葉に詰まった。
「も、申し訳有りません……。
そ、の。もしかして女性と一緒に居たのでは……と…」
自分の杞憂だったのか。
でも、心配にもなるだろう。
(いいえ…心配…なんて綺麗なものじゃない…)
これは、明らかな嫉妬。
彼にすがり、彼に愛され、彼に抱かれる女性たちがどうしようもなく羨ましかった。
私を愛してと欲して、そう望むだけで
彼は夢の中に招待してくれるのだから……