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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第14章 明くる日の戦士たち


「はぁ……疲れた……激務じゃない…」


そんな夜。


川沿いの夜桜並木のトンネルを、ゆっくりとした足取りで歩く女性がいた。

蜂蜜色の髪を、肩まで伸ばした乙女だった。



今日は家に帰れば妹が待っている……

そう自分を鼓舞して、黒蜥蜴たちと任務を遂行させ終えた。



「あぁ……疲れたー…芥川先輩もちょっと人遣い…荒い…」


彼女––––樋口一葉は…ポートマフィア所属の、黒蜥蜴などの遊撃隊を束ねる副官だった。

銃撃戦や殺戮を自らの手で行う事なく、他人に、部下に指示を下せば良い役職だと、そう思っていた…



ポートマフィアの五大幹部が二人も抜けて、
副官などと言う高い立場に自分が召し上げられたのだ。



「なんだかなぁ……」

不満がある訳ではないのだ。
むしろ、芥川先輩と一緒に仕事が出来て幸せなのだ。

でも……慢性的な物足りなさは、埋まることはない……




「桜……はぁ、綺麗だなあ……」


ふと思い出したように頭上を見れば、夜桜がそこにあった。

誰もいない夜半の公園、ベンチや滑り台には花びらが積み重なっていた。




昼間に花見でもしたのか、それとも何かの祭りの名残なのか、
ところどころに落ちている細かいごみがどうにも気になってしまった。

桜の木がこんなに綺麗なのに、飾り立てる背景にごみは似合わない。



「……って、いちマフィアが何をしているのかなぁ…」


時折 吹いてくる夜風が、桜の花を少しずつ散らせた。

カラン、と澄んだ音を立ててゴミ箱へと拾った空き缶を捨てた。




「今日、満月なんだ」


夜は魔都であるここ、ヨコハマの最も危ない時間帯…



真っ白で 花嫁の潔白さのようというか…
『黄色』なのではなく、純白の月が 大きく照っていた。


紺碧の夜空にその白さがはっきりと目立つ。



「あ…」



春の夜の、生暖かい風が吹いてきて

ザッと桜の花びらを夜空へと舞い上げた。

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