第13章 蹌踉めく唇を重ねて
「ん……っ!」
寸前に息を吸えなくて
涙とともに、飲み込まれた声が小さくはじけた。
「……っぁ ––––…っん」
舌を捕らえるように 絡められてその外套に縋り付く。
力が抜ける
手も足にも力が入らなくて
腰が抜けそうなほどの刺激に喘いだ。
「ん、は……んっ、」
水音を立てて口内を貪られて、その身体に腕を回す…
恥ずかしさとそれを超す嬉しさで
頬が上気してゆくのが感じられる。
嬉しい
嬉しい、どうしてキスをしてくれるの?
私の一方通行じゃなかったの?
「んっ、んん……ぅ」
唇が一旦 離れれば銀色の唾液の糸が伝う。
潤んで震えた睫毛に涙が付着して、
熱くなる雰囲気に目を細く開ける。
涙でぼやけた視界に……
確かに欲情した綺麗な紺色の瞳があった。
こちらを射殺さんばかりの色気と性欲を含んだその目線に
お腹らへんが熱くなって疼いた気がした。
「ねえ、お願い……お願いだから…教えて……」
駄目で元々、忘れてしまうというのなら
まだこの夢の中で……貴方に愛されたい……
「いいよ」
その言葉と声で
嗚呼、と引っ込みかけていた涙が溢れ出す
そう、ですのね……
この美しい白昼夢から
本当に、覚めてしまうようですわね
「僕の名は、由紀。
三島由紀夫。
君が忘れてしまっても、僕は永遠にこの夢を覚えているから。」
だから泣かないでと
涙で溢れる目元を拭われた。
その優しい指先を、私の手で包み込む。
この体温を忘れないように。
いつかまたどこかで
この花園の紳士に会えますように。
「いつか、君がまた眠れなくなった時に
この夢に来てくれるのを待っているよ。」
" おはよう、ナオミちゃん。"
意識の外、夢の外から
誰かの声が響いてくる
「嫌、待って––––」
彷徨った指先が彼の腕を見つけて
最後の最後
その唇に、己の蹌踉めいた唇を重ねた