第13章 蹌踉めく唇を重ねて
「んん……」
軽く唸って、目を開ける。
蒼穹がそこには広がり、霞む太陽があった。
「おはよう、ナオミちゃん」
「……あ、私ったら……」
未だ彼の名を教えて貰っていないが
そばにいてくれるから、呼ぶ必要がなかった。
「よく眠っていたようだ。僕の夢の中は心地よかったかい?」
「えぇ、とても……。
でも……ここも夢の中なんですわね?」
まあね、と彼が笑って言う。
「ただ––––」
でも、その声も、ぼやける顔もどこか暗くて……
その続きを聞きたくない。
耳を塞いでしまいたくなるような気がした。
ここを生易しい、美しいだけの白昼夢だと言うのなら
最後の最期まで、夢のままで……
終わらせてほしかった
「もう、楽園で微睡むのはお終いだ……」
嗚呼……嫌だった。
夢は夢として朽ちていく
「君の無意識が、浮上しようとしているんだ。
僕がここにいる限り、不夜の楽園はなくならない。」
どうしてなんですの……?
私が、目覚めようとしている?
ここから、この夢から覚めようとしているということ?
「それでも、君が目覚めてしまったら
ここは、この楽園は
跡形もなく霞となって消えてしまう」
嫌だ––––
そして、駄目だ、駄目なのだ。
振り向いて、この彼の顔を見てしまったなら。
私のすぐそば、背後にいる この夢見の支配者が
私の震えだした肩をなでる。
「嫌……、嫌、ねえ、貴方のお名前を教えて下さい
私は貴方を忘れたくない!」
駄目だと判っていたのに
どうせ忘れてしまうのならば
貴方の顔を見せて
振り向いてしまった。
「駄目だよ」
「ひゃ……っ!」
私の瞳を覆うようにして
黒い外套が、視界いっぱいに広がった。
途端私の背中を、暖かな体温が包み込む。
「ねえ嫌、嫌よ……
教えて、私、貴方を忘れたくないの」
抱きしめてくれていたその腕に縋る。
「ナオミちゃん」
「嫌、聞きたくな ––––––っ!」
泣き叫ぶように首を振る、
直後、優しく顎を掬われて
唇に温かいものを感じた。