第13章 蹌踉めく唇を重ねて
「––––––…」
夢を見ているのだと思う。
ふわふわ、意識が揺蕩って
甘く、淡くはじけてゆく感覚。
「ナオミちゃん––––––?」
ふと響いた声に振り向いた。
永遠を約束された時の流れと、変わらない季節。
そこには苦しみも涙もない、世界の最果て。
「ぁ……」
私から出た声は、意味のない言葉一つ。
優しく、内側から侵食してゆく白昼夢が
霞のように脳を満たす。
「……ここは、夢の中……なんですの?」
「そうだとも。ここは、君の中にある楽園だ。」
嗚呼、矢張り、と思った。
意識形状も曖昧で、判るのは
極彩色の花々が咲いているだけの楽園にいる…ということ。
「えっと……。貴方は、誰ですか?」
私の問いに、その声の主はどこか困ったように言った。
霧の中のような、靄がかる頭…
知っている顔なのに……
思い出せないその人の名前が、どこか心を騒がせる。
「誰、か。
僕は、花園から見ているだけの人だ。
君をこの意識の楽園に引っ張りこんだのは……
体調の悪い君を起こすのは……さ、駄目だったから。」
"夢の中"だというのにやけに鮮明で、本当に白昼夢のよう。
意識の中に存在する、白昼夢の楽園。
花風が頬をなで、私はガーデンチェアに座った。
当たり前のように椅子を引いてくれる声の主の方に感謝しながら花園内を見渡す。
ここが夢の中だというのなら
"夢の外"にいる私は、今頃眠っているのでしょうか……?
「却説……、君の眠気を誘うためにも、何か話そうか。
ここでよく眠り、体を休めてあげないとだ。
君が聞きたいこととかあるかい?
あ、僕が誰とか、面倒そうなものは……」
……答えてはくれませんの?
「うん、答えなくもないよ。
君女の子だし。」
女性なら良いんですか……
「さあ、何か聞いてご覧。」
優しく促され、私は鎮静作用のあるハーブティーを頂いた。
「……では…、あの、なんだか最近、
不思議なことばかり起きるんです」
「不思議なこと……かい?」
甘やかな声音が、私に問うた。