第13章 蹌踉めく唇を重ねて
「……あ、では、私はそろそろ高等部に戻りますね。
ナオミちゃん、お大事に」
「ええ、ありがとうございます」
保健室前で三島に一礼し
扉を静かに閉めて去る菜穂子の姿は
マフィアの時のそれと何ら変わりない。
まあ、この私立学校の高等部に通う菜穂子が
制服を着ている……というところまでは。
「却説……谷崎さんのお兄さんが––––」
「三島先生……」
ナオミが、保健室のふかふかソファに座しながら、
不服そうな、少しだけ赤らめた頬で三島を見た。
「……ナオミ、とは呼んでくれませんの?」
女生徒のその言葉に、三島が一瞬だけ目を丸くし
優しげに細める。
(嗚呼……この子も、か。)
三島の頭には諦観が過ぎり、自身の異能力の厄介さに辟易する。
「いいよ、ナオミちゃん。
で、お兄さんの……潤一郎君なんだけれど、
確か高等部生だったはずだ」
三島が生徒の個人名簿を手繰る。
「おや、上橋と同じクラスだ、潤一郎君」
言いつつ、三島が誰か宛に電子端末でメッセージを送っていた。
「先生、菜穂子ちゃんとお知り合いですの?」
「知り合いというか、保護者的な関係かな。」
中等部である自分に、「先輩」と呼ばれることを
菜穂子は慣れない、何だか擽ったいと
ナオミにはちゃん付けを望んだ。
高等部にいる兄と同じクラスというのも、偶然だった。
私の中等部のクラスには、副担任がきた。
あの、ちょっと怖そうな復帰した男の先生だ。
最近は何故か、不思議なことが重なる。
まるで誰かが、そう仕組んだみたいに。