第13章 蹌踉めく唇を重ねて
幹部会議が終わり、重役たちが席を立つ。
「三島、行こうぜ」
「嗚呼」
手には会議の資料、三島に至っては松葉杖なので
部下である菜穂子が紙一枚を両手で持っているのだが。
「あーっと、待った。
三島君と上橋君、2人に個別の話が」
しかし首領に待ったを掛けられ、立ち止まる。
三島が鷹揚な態度で頷き、上橋も三島に従う。
「中也、先に温室に行っているといい。
追いつかないだろうけれど、終わり次第向かうよ」
「嗚呼」
首領に一礼して、会議室を出る。
紅葉とAは未だ険悪だった。
「どうしたんだい?」
「うん––––」
森が何故か考え込むように一瞬黙り、そして2人を見る。
「上橋君、きみ、今 何歳だったっけ?」
「は。十七です。」
無表情に答える菜穂子の頭を、ぽんぽんと撫でる三島。
「年齢的にはいける……か。
三島君、さっきの会議の延長なのだが…」
「はい」
裏切り者が逃げたのは都市部の私立学校、
しかも教員として––––だ。
もともと非常勤だったらしい。
裏と表の顔を使い分けることにとやかく言うつもりは
森には更々ない。
マフィアはそこまで面倒みないし、第一裏切ればどう処分されるのか判ってのことだろう。
「その私立の『上』はこちらが買収した。
三島君、上橋君。
少々 面倒な仕事になるのだけれど……
行ってくれる?」
森のその言葉は疑問形だし、
そこまで有無を言わせないほどの迫力はない。
しかし首領だ。
首領のお言葉は絶対なのだ。
ポートマフィア内に於いては。
「首領、貴方の意思の儘に」
「は。」
嗚呼、面倒なことになった––––。