第13章 蹌踉めく唇を重ねて
「却説、お集まり頂きありがとう。幹部諸君。」
森がぐるりとその面子を見渡した。
馬蹄形の円卓につき、それぞれの幹部の背後には
直属部下を侍らせている。
紅葉、A、三島に中也。
失踪した太宰の席は、保留になっている。
「では中也君、号令を」
「は。」
中也が帽子を取り、号令を掛ける––––。
「始めましょう。」
重苦しい幹部会議が、始まった。
……主に、尾崎紅葉とAの嫌味の言い合いが原因で。
「太宰幹部の件ですが––––」
一番早くそれを切り出したのは、やはりAだった。
「嗚呼……、彼は、うん。
かなり惜しい人材だったよ。」
「ならば、何故席を埋めないのです。」
すでに過去形、森だって認めている。
ならばAの主張も最もだろう。
このままいけば、きっとAのところの準幹部が
派閥的にあてがわれることになる。
「ふん、うぬのとこの部下を持って来させたいだけじゃろ」
「おや、ならば尾崎幹部には候補がいるとでも?」
睨み据える2人の視線での冷戦。
空気がぴりぴりとし、プレッシャーを高めるだけだ。
広めの幹部会議部屋、そこだけ膨れ上がる殺気に
それぞれの部下達の口の中が渇いてゆく。
「……は、相変わらずの減らず口じゃな。
方便はいささか立つようになったのか。
無駄なことを。」
「尾崎幹部ほどでは」
ビキリ。
2人の間に一瞬で亀裂が入った。
「うぬから先に、わっちの刀に掛かるかや!?」
「ではその刀ごと貴女を宝石にさせてあげましょう。」
殺気が目に見えるようだった。
中也が「あー…始まった…」と面倒くさそうに頭を掻き、
三島は怯むことも臆することもなく、穏やかに笑っているだけだ。
(あああ……御二方…)
菜穂子もぴりぴりとする空気に辟易した。