第13章 蹌踉めく唇を重ねて
「お早う、三島君。
今朝の調子はどうだい?」
楽園の門が開かれて、首領が入って来た。
白衣に黒のシャツ、おまけに
エリス的には『冴えないおじさん』風にしている(らしい)表情。
「お早うございます。特に顕著なものはなさそうだ。」
「ぉ、お早うございます」
三島と菜穂子が挨拶を交わした。
定時検診、三島の体調や大怪我の様子を診に来るのが森である。
三島が一人で使うぶんの膨大な量の包帯は、大体手洗いして
この楽園に干しておけばすぐに乾く。
そこは"夢"を壊さないように注意しながら、だが。
「三島君、後で幹部会議があるのだが、動けそうかい?
パネル通信も吝かではないけれど……」
森が黒いバインダーに挟まれた
三島のカルテに書き込む手を留め、そう言った。
「大丈夫です。
怪我も、動けないという程には痛くはない。
たまには外の空気も吸わなくては、劣化してしまうだろうしね。」
産業改革の進む日本の空気は、この近代が一番汚く
三島の大怪我と肺に障る。
真綿が無菌室並みとはいかなくても、空気清浄機を
三島のベッドの遮光天蓋に取り付けたのも諸々含んでいるのだ。
「だが、いきなりなんだね? 幹部会議。
後で中也も来るだろうし、伝えておきます。」
「うん、頼むね。
嗚呼、いきなりにせざるを得なかったが、そこはそれ。
昨日の夜に、少々ね……
会議で話そう。」
首領は疲れた顔をしていた。
珍しいな、と菜穂子が首を傾ぐ。
幹部会議は幹部4人に通達が来てから3日後、とかが今までだった……
今日いきなり入るということは
マフィアから謀反者が出たりとか
傘下組が敵襲にあったとか、そういう類に限られてしまう……
(……何にせよ、三島幹部がこれ以上お怪我なさらないためにも)
数年前、私は三島幹部に この命を救われた。
その恩に報いるためにも、己の役目を果たさなければ……